先輩からのメッセージ

実践的な授業の中で得たコミュニケーションの力 それがいまの仕事にとても役立っています!

PROFILE

尾崎由嘉さん

NIC 第6期生 埼玉県立所沢北高校出身
オレゴン大学環境学部卒 グリーンピース・ジャパン/森林問題担当

 

中学時代から、自然保護や野生生物保護に関心を持つようになり、いつしか自分もそういう仕事に就けたらいいな、と思うようになっていました。ちょうど環境問題というものが世の中に意識されはじめたころで、時代的にもそういう刺激があったのだと思います。

高1のころに起きた湾岸戦争では、連日報道されるニュースのなかで、野生生物が意味もなく犠牲になっていました。高校生の私にとって、その映像はかなりの衝撃でしたし、“日本のなかにいるだけでは、わからないことがたくさんある。そういう問題に関わる仕事に就くには、やはり英語力や、海外での経験が必要なんだ”とおぼろげながら感じはじめてもいました。

留学を決意して両親に話したところ『行くのはいいが、高校を卒業してすぐでは心配もあるので、日本校というステップを踏むNICならばよい』という了解を得たんです。NICを選んだ、もう一つの理由は確実に渡米できる信頼性があったからです。

成績は普通でしたね。クラスは上のほうではあったと思いますが、自慢できることは何もないです。それよりも、友人がたくさんできたことのほうが強調できるかもしれません。渡米して、アメリカの各地に散ってしまってからも連絡を取り合い、情報交換をしたり、生活をしていく上で困ったときにも助け合えるような友人ができましたから。いきなり留学してしまっていたら、たぶんそういう友人を持つことはできなかったでしょう。それが私にとってはとても大きな支えでした。NICでの一番の成果は友人を得たこと、ですね。

渡米前の1年間は、早くアメリカに行って環境学の勉強を始めたいと、それだけを思っていました。ただ留学するためには、NICでそのための土台をつけなければなりません。自分では英語は得意なほうだと思っていたけれど、いざ入学してみると、実際には「話す聞く」が全然できませんでしたから、アメリカの大学ではいかに高いレベルが必要とされているか思い知らされた感じですね。また、これはNICのプログラム全体に言えることですが、それまでの日本の教育とは違って、物事をどう捉えるか、いろいろな視点から自分なりに考え、それを表現していくという授業がたくさんありました。高校までの一方通行の授業と違い、難しいけれどやりがいがありました。アメリカの大学で学ぶ予行練習という意味でも、いい経験になったと思います。

ネバダ州立大学リノ校を経てオレゴン大学の環境学部に編入してからは、インターンシップを経験したり、ボランティアにも積極的に関わり、社会を自分の目で見るという機会が、一気に増えていきました。オレゴン州自体にも環境に対する関心の高さがあって、環境問題に関連した団体などもたくさんあり、自分の学びたいことが体験できるよろこびでいっぱいでした。

私がインターンとして通った施設は「ワイルドライフ・リハビリテーションセンター」でした。このセンターは怪我をした野生の動物を集め、治療をして野生に戻すところで、私は週に2回ほど通い、鳥や動物たちの世話を手伝っていました。ここで学んだのは、指示を待っていても、誰も何も与えてはくれないということです。自分からスタッフの人に働きかけていかないと、仕事にならない場所でしたから、自分には何ができるか、いまは何をすべきか、まずそれを考えることからはじまりました。単に授業や勉強のための英語ではなく、もっと根本的な、社会で生きていくためのコミュニケーションのようなものを、働きながら教わったのだと思います。

オレゴンには野生のアヒルがたくさん住んでいて、春には迷子になった幼いアヒルがたくさん連れてこられていました。50羽ぐらいの子アヒルに、1時間おきに餌をあげ、大きくなるまで親がわりをし、そして野生に戻すため、川に放していくんです。オレゴンは林業が盛んな地域で、切り倒された森の中で被害を受けた鳥や動物が運ばれてきます。湾岸戦争ほどではないけれど、人間が経済活動をするなかで被害にあっている動物がいるということも新しい認識でした。常駐のスタッフは1人だけで、あとはすべてボランティアやインターンです。獣医も週に1回、ボランティアで来ていました。私も含めたメンバーが入れかわりで来て、注射を打ってあげたり、餌をあげたりしていました。

センターは、その地域に住宅街が広がることによって、野生生物が住みかを追われるようになったという背景から生まれたものです。オレゴンの人々は、そういう状況を黙って見過ごしにするのではなく、野生生物とともに生きていこうという意識を持っていたんですね。街の普通の人たちがセンターの活動を理解していますから、傷ついた動物を見かけたらすぐに連絡がきたり、場合によっては運んできてくれたりするんです。また、ときには動物の数が、スタッフだけでは賄いきれないほどになることもあり、そういう場合は動物を預かってくれる人を探すのですが、大体次の日には「自分たちが見てあげられる」という人が現れて、連れて帰ってくれました。そういう意味で地域の人たちとの交流も盛んでしたね。オレゴンの街には、一方で人間が被害を与えているけれども、それを自分たちで何とかしようという考えがあったということです。 

卒業後、ロサンゼルスの旅行会社に就職しました。すぐ帰国してしまうより、アメリカで社会人としての経験を積んで帰りたいという思いがあったからです。アメリカには、大学を卒業して1年間は働けるというプラクティカルトレーニングというシステムがありますが、それを利用したわけです。

日本人にとって仕事が得やすいという理由でロサンゼルスに移り、すぐに働いてほしいという旅行会社を紹介されて、そこに職を得ました。環境問題とは少し離れてしまうけれど、その旅行会社ではツアーの企画から日本からのツアー客を受け入れる業務や、実際にロサンゼルスとかラスベガスをガイドする仕事もしました。もちろん環境に関する仕事をしたいという気持ちはありましたが、それで食べていくのはすごく難しくて、特に留学生がそういう仕事に就くのは、さらに難しいことだとわかっていたので、ひとまずアメリカでできる仕事は何かというところからはじめたわけです。ホテルの状況やレストラン情報などには、まったく無知でしたし、マネージメントに関することも全然勉強していなかったので、戸惑いはありましたが、将来的に環境関連の仕事をするにしても、経営の動きというか、ビジネスのことを見るいいチャンスだと思っていました。仕事自体はかなりおもしろかったですね。やはり仕事柄、いろいろな人に会えて、楽しく働くことができました。

その旅行会社に1年勤めた後、帰国しました。プラクティカルトレーニングの期間が終了するということもありましたが、一番の理由は、やはり自分が本当にやりたい仕事をしているわけではないという、もどかしさを感じていたからです。旅行会社に勤めている間も、環境関連の仕事で面接を受けるため、2度ほど日本に帰ってきたことがありましたが、やはり正式に帰国しないと、面接の次のステップには進めないことがわかったので、帰るならいまだろうと。

帰国してからは自然保護団体など、環境関連の職場だけを探しました。それで見つからなければ、またほかの国へ行って探せばいいという意識もあったので、一切、他業種には手をつけませんでした。タイミングにも恵まれたのですが、ちょうどそのとき、グリンピースジャパンが5年ぶりの人材募集をするということを聞いてさっそく応募しました。500人以上の応募があったらしいですが、採用されたのは私も含めて5人ということでした。ほとんどアメリカで勉強してきた人で、人類学を学んだ人もいますし、メディアの勉強をしてきた人もいました。

いま私が担当しているのは森林問題です。多様な生物が棲息しているアマゾンの森がなくなってしまうという森林破壊の問題、原生林の破壊の問題を担当し、業務の内容は、政府や企業へのロビー活動が主になっています。ロビー活動は、現実に起きている問題を担当者や責任者に提示し、それを認識してもらうことからはじまります。相手先は、例えば環境省、林野庁などの監督官庁だったり、大きな商社だったり、そういう社会的責任のある場所に行って「こういう問題がある」「ついてはこういう対策をとる必要がある」という話をするんです。そういった関係者にロビー活動をしながら、問題を明らかにしていく一方で、消費者の人にも問題の深刻さを知らせるための講演を行うこともあります。また対外的には、環境に関する国際会議や、また多国間の条約に関する会議などに向けたレポートをつくることも、私の仕事です。

私たちは『日本は多くの木材を輸入している国であり、その輸入木材のなかには、違法伐採や破壊的な伐採をされたものもある。そういった違法伐採を放置していてはいけない。輸入している国が対策をとらないと、こういった問題は解決できず、間接的にほかの国の森林を破壊していることになっているのだ』ということを繰り返し訴えています。多くの場合、消費者は深く考えず、いろいろな木材の製品を使っているけれども、一体それがどんな方法で、どこからやって来るのか、そしてそれが世界の環境にどのような影響を与えているのか、そのことを一瞬でも考えてみてもらいたいのです。そのためにさまざまな会議でプレゼンテーションする時間をもらったり、いかに輸入国が対策をとらなければいけないかというレポートを担当者に提出しに行ったりしているわけですが、すべての活動の成否は、英語、日本語を問わず、コミュニケーション能力にかかっていると感じています。

オランダのハーグで開かれた「生物多様性条約締約国会議」という会議では、行ってみたらいきなり「プレゼンテーションをしてくれ」と言われて。慌てはしましたが、大学でそれこそ涙が出るほど苦心して学んだベースがあったので、無事乗り切ったこともありました。昨年は環境省副大臣に会い、また別の機会には、日本も関わっているブラジルでの森林破壊問題を提示するため、ブラジル大使館に出向いたこともあります。マホガニーという高級家具に使われる貴重な樹が違法で伐採される例が多いんです。マホガニーを輸入しているのは、主にアメリカやヨーロッパですが、加工されたものが日本にも輸入されているので、傍観者ではいられません。環境破壊はこのように、世界中のさまざまな国が多少なりとも関係している問題です。遠いどこかの国で起きていることを、自分の問題として捕らえて分析する力が、いまとても必要になっているんです。

高校生の段階で、やりたいことが見つかる人は少ないでしょう。私の場合は、たまたま環境問題があったわけですが、自分の得意なことは何か、やりたいことは何か、一番好きなものをはっきり持つことが大事だと思います。それが曖昧なまま留学しても、成果を出すことは難しいと思います。逆に言えば、それさえあれば、どこに行っても自分を見失うことなく進むことができるし、自然といい人脈、いい友人に恵まれるはずです。時間はまだたっぷりあると思うので、自分にとってのそれをじっくり探してみてください。