先輩からのメッセージ

幸せの定義が180度変わった

PROFILE

梅原洋陽さん

NIC 第17期生 神奈川県立茅ヶ崎北陵高校出身
バージニア州立ウィリアム&メアリー大学心理学部4年 08年5月卒業

ハーバードやコーネルを蹴って来る大学

『College of William & Mary』を知っている日本人は少ないが、アメリカではよく知られる全米を代表する州立大学である。全米の州立大学の中で、バークレーやバージニア大学とならびトップ5に入る。また、ハーバード大学の次に古い歴史をもつ大学で、トーマスジェファーソンをはじめ、3人の大統領が輩出している。
「大学として運営を始めたのがハーバードより少し遅かったみたいで、実際にはハーバードより先に授業はやっていたようです。」とは洋陽さんの言葉。

全米で8校しかない『The Original Public-Ivy』の1つとして知られ、ハーバードやコーネルなどのアイビーリーグの名門大学を蹴って入学する学生も多い。

「単純にオールAの成績でも入れないそうです。必ず部活動やボランティア、アルバイトなど課外活動をやっていないと合格できない。」

8、9割が寮に住んでいるというウィリアム&メアリーではほとんどの学生が課外活動をやっている。「日本流に言えば『文武両道』です。でも皆高校時代から優秀だっただけに、大学でBをとると『なんで私がBなの?』って悩んでいます。高校と大学は違うから当然なのですが。優秀すぎるのも問題ありですね(笑)。」

日本の文化を伝授

キャンパス内にたくさんの寮がある。その中でも『Language-House』という寮は、さまざまな外国語に興味のある学生が入る寮で、フロアごとに『German-House』、『Japanese-House』などという名前がついている。大学として、学生が英語以外の言語を身につけることを推進しているのだ。

「僕が住んでいるのは、『Japanese-House』です。日本語に興味があるアメリカ人や他の国からの留学が20名くらい居ます。日本への留学経験をもつ人はいないのですが、皆一生懸命日本語を勉強しています。」

日本に興味をもつ学生にはインドア派が多いという。
「どうしてもアニメやテクノロジーが中心。僕はそういった日本の暗いイメージ(笑)を変えたいので、彼らを一生懸命アウトドア派に変えるために頑張っています。」

ちょうどこの夜は、Japanese Cultural Association(JCA:日本文化クラブ)主催の秋祭りが予定されており、皆その準備に追われていた。
「JCAのメンバーは皆アメリカ人だったのですが、前期の祭りを見て、『これじゃいかん』と(笑)。本当の日本を伝えたいと思って、今年は影のリーダーとして秋祭りを盛り上げます。」

金魚すくいやヨーヨーなどのグッズを日本から送ってもらった。また、M&Mのチョコを『はし』ですくうゲームや、わさび入りの激辛おにぎりを食べるゲームなど、日本の文化を楽しく紹介するイベントがめじろ押しである。

普段の生活でも日本から大量の水風船を送ってもらい、寮の前のグランドで水風船合戦をやったり、夜中に皆を叩き起こしてフロア対抗のキックベース大会をやったり、洋陽さんはリーダーシップをとって頑張っている。
「Language-House内のサッカー大会も企画開催したんです。でも一度きりで終わらないように、チームをつくって、週3回は練習。僕がやらないとみんなすぐインドア派に戻ってしまう(笑)。」
そういった洋陽さんの影響なのか、ルームメイトのAndrewくんやガールフレンドのSarahちゃんも来年から日本の大学に交換留学するという。2人ともとても流暢な日本語を話していた。

洋陽さんは、それ以外にも大学のサッカー同好会にも入っている。「公式クラブではないんですが、部員も100人以上います。今度大学の公式クラブになれることになって。そうすれば部費も少しもらえます。」
その中で堂々とレギュラーポジションを獲得し、週4回の練習に励んでいる。

また、日本語クラスのTA(助手)もやっている。
「シャスタにいたときから続けているのですが、授業の補講でドリルをやるんですが、その先生をやって、
おかげさまで給料も少し頂いています。」

幸せの定義が180度変わった

洋陽さんは元々スポーツビジネスをやりたいと考え、国立信州大学教育学部を含め、いくつかの大学を合格した。
「それから母親がNICの資料を見せてくれたんです。『本当は、落ちたら見せようと思ったんだけれども。』って言って。」

それから本格的に海外進学を検討し始めた。そして日本の大学への入学を辞退しNIC入学。
「早くアカデミック(教養課程)に進めるようにがんばろう、って息巻いていたんですが、3月からのヘッドスタートに参加していきなり鼻っ柱を折られたというか。自分より優秀な人がたくさんいた(笑)。」

1学期目は最上級のHAクラスに入り「やってもできない自分を改めて発見した」という洋陽さんも無事2学期からアカデミックに進級し、NICで1年分の単位を取得、カリフォルニア州のシャスタカレッジに進学した。

「シャスタカレッジの勉強は正直、NICよりも楽だったので、勉強以外のこともがんばろうと思って、サッカー部のトライアウトも受けてサッカー部に入部しました。」

この経験が洋陽さんを大きく変えた。
「自分を認めてくれる居場所ができたというか。。。毎日夜遅くまでサッカーを一緒にやって。。。メキシコ系の学生が多かったんですが、彼らから多くのことを学びました。」

「何が幸せなのか、幸せの定義、価値観が180度変わりました。それまではスポーツビジネスで成功すること、すなわちお金持ちになることを目指していたんですが、彼らと触れることによって、物質ではなく、人と交わったりして得られる『内からの幸せ感』が本当に大事だと気づいたんです。たしかにいろんなことに文句を言っているのは、『金持ち』の人に多い(笑)。」

『幸せになる能力ってなんだろう?』そう考え、洋陽さんは専攻をビジネスから心理学に変えた。
「今は本当に『留学してよかった。』って思います。『留学しなきゃよかった』と思うのはテストの前日だけ(笑)。考え方が180度変わったし、特に人に対する接し方が変わった。」

サッカーで北カリフォルニアの代表メンバーにも選ばれ、代表戦にも出場した。そしてシャスタカレッジで1年間学んだあと、ウィリアム&メアリーへ3年次編入。成績は、NICでとった『Natural Science』のみABで、あとはすべてオールAを維持し、ウィリアム&メアリーへ移った。

「ここには日本人は5人くらいしかいない。でもみんなアメリカで育った人とか、日本でもインターナショナルスクールに行っていた人で、日本の高卒は自分だけのようです(笑)。」

固定観念は敵

日本からカリフォルニアへ、そしてバージニアへと学びの場を変えてきた。
「全然文化が違う。カリフォルニアとバージニアも同じアメリカなのに、全く違う文化です。」

そういう経験を通じて感じたことは、
「固定観念は『敵』です。まずは固定観念を捨てないことには、環境に適応することはできない。よくいますよね、どこに居ても楽しめるやつと、どこに居ても楽しめないやつ。その差は柔軟な考え方をもてるかどうかだと思います。」

ウィリアム&メアリーは全米の大学でもっとも教授対学生の比率が低く、その割合は1:12。一クラス5人のクラスもめずらしくない。
「もう、ひと時も休めない。ずっとディスカッションでしゃべっていなきゃならない(笑)。」

そういって笑う洋陽さんは、心理学以外にもいろいろな科目をとっている。
「宗教学のクラスで『移民の宗教史』というのをとっているんですが、500ページの教科書が2冊、加えて1,500ページの資料を1ヶ月で読まなければならないんです。」
学生同士で手分けして読まないのか、と尋ねると、
「必ず自分で読みます。もちろん皆そう。英語でも知識でも負けるのが悔しいので、いつも『本気』でやっています。」

日本文学のクラスもとった。
「現代だと三島由紀夫とか太宰治、古典だと源氏物語もやりました。」先生はもちろんアメリカ人で、教科書も全部英語で書かれている。
「解釈の仕方が全然違う(笑)。文化が違うことこんなにも読み方が違うものかと。。。」

『自分ができない』と思うと頑張れると言う。
「ウィリアム&メアリーは皆優秀で、自分ができないという気持ちになるので、環境としては最高。」という洋陽さんは『自分で選んだからやるしかない。』とこれまでの平均成績も4段階で3.85をキープしている。

『金曜日は遊んで、土日はまた勉強(笑)。』という生活スタイルだが、
「自分だけでなく、みんなそうなので、それが習慣になっています。」

『人間力』=幸せを感じる力

『周りに流されるのがイヤ。』という洋陽さんは、どんな事が起こっても、自分の一貫した姿勢が大事だと言う。
「いやな事があったから、『もうヤメタ。』になるのではなくて、それによってどう自分を成長させられるか。外部からの支配ではなく、自分で自分の人生をクリエイトできるように。そしてつらいことや悲しいことを自分の人生にプラスにできるようになることが、自分の目標です。」

「お金や洋服などの物質を持つことが幸せになる条件ではないし、『幸せになる能力イコール(=)幸せを感じる力』そしてそれが『人間力』だと僕は思います。

今自分が体験している喜びを後世に伝えたいし、こういう力を養う教育ができる『教育者』になることが現在の夢だという洋陽さん。
「正直言って、NICに居たときは、廣田先生が言っていることは理解できなかった(笑)。でも今ならすこし分かる。人間の根本は教育だし、教育は人を変えると思います。」

日本に居たときは、『自分の意見をもつことが大事』だと思っていた洋陽さん。アメリカに来てからは、『自分の意見をもちながら、相手の意見を聞いて、自分の意見を客観的にみる力も大事』だと思うようになったという。

寝る時間もないのではないかと思われるくらい、忙しい生活を送っている洋陽さん。インタビューの場所として選んだ大学内のカフェテリア(学生食堂)に向かう道中でも多くの学生や先生に声を掛けられ、また、学食内のおじさんおばさんとも顔見知り。学部生が5,000人大学院生も含めて7,000人という小さな大学で、洋陽さんの大学への貢献は計り知れない。